俳句を英語に訳す
ミント外国語教室のブログ用にこれまで作成した記事を再録しています。
松尾芭蕉の有名な俳句「古池や蛙とび込む水の音」には30通りほどの訳があるそうです。
蛙が1匹なのか2匹以上なのか。水の音は、蛙が跳び込んだ時の音なのか、水が流れている音なのか、それで訳語が変わってきます。他にも、「古い」をどう訳すか、「とびこむ」をどう訳すかで、微妙に変わってくるのでしょう。
この俳句に30通りの訳があるなら、他の俳句にだって沢山の訳の可能性があります。どれもが正解かも知れないし、どれも満点ではないかも知れません。でも、俳句を英語に直してみるということは、日本語について考え、日本語と英語の違いについて考え、英語の表現について考えるという素晴らしいチャンスだと思うのです。
そこで、本日のお題は、
与謝蕪村の名句
「菜の花や月は東に日は西に」にしましょう。
まずは、原文の描く世界について考えます。
与謝蕪村は江戸時代中期の人です。大阪で生まれましたが、各地を遍歴し、最終的に京都に居住し、京都で亡くなりました。
江戸時代には、菜種油の生産が急増しました。人々の生活パターンが変化し、灯明のための油の消費が増えたためです。大阪は最大の菜種油の集積地でした。菜種油は重要な換金作物でした。
与謝蕪村のいた関西地域では菜種油の原料となる菜種の生産が沢山行われていたはずです。その情景については、例えば、時代小説の表現を借りてみましょう。
「いきなり、脳裏に大坂の大川の土手の景色が広がった。一面の菜の花。その黄色い波に溺れそうになって、…」(高田郁 作『みをつくし料理帖 小夜しぐれ』所収 「夢宵桜—菜の花尽くし」)
あたり一帯に咲く菜の花の黄色に囲まれた(あるいは見下ろしている)作者。春の夕暮が間近にせまる時刻、月が白く東の空から昇っており、太陽は西の空に残っている。そんな状況を詠んだ句です。
では、英語に訳してみましょう。
「菜の花」は、研究社和英中辞典によれば rape blossom です。花畑がひろがっているので、「花」は複数にする必要があります。問題はrapeという語です。rapeには同じ綴り、同じ発音で「強姦」とか「暴行」の意味があります。全く違う語源の語なのですが、それでもrapeを使うには少し抵抗があります。別の語にしたい気持ちがあります。別の語にするならどんな語が可能なのか、考えなければなりません。でも、取りあえずはrape blossomsを使っておきます。切れ字の「や」は感嘆符(!)で処理してみましょう。
「月は東に日は西に」は、the moon is in the east, the sun is in the westで意味は伝わりそうです。
第1案
rape blossoms!
the moon is in the east,
the sun is in the west
is は省略できるかも知れません。andを二つの文の間に入れて見たらどうでしょう。
第2案
rape blossoms!
the moon in the east
and the sun in the west
rape blossomsの他の言い方を探してみます。
rapeseed flowers (blossoms)でもいけるかも。
そう言えば、キャノーラ・オイルのことを言っているのを思い出しました。
rape やrapeseedの代わりに、canola flowers というのはどうでしょうか。
最終案
canola flowers
the moon in the east
and the sun in the west
英語の俳句では、文頭を大文字にしないというのが主流なようですので、大文字の使用を避けました。